ラブシーン・大人の芝居

「二人の情事」を見てしまった○子が、部屋に乗り込んできて、
静かな「修羅場」となります。


下着姿(スリップにパンティ・・・)で、
「こと」が終わった後のしどけなさを残しつつ
ブランデーグラスを転がしながらの、長い一人台詞。


本当に苦労しました(T^T).


苦労したから、よく覚えてます。


「あなたの時代は終わったのよ。
○子の時代は終わったの。
女は年を取れば醜くなるもの。
いつまでも若くしてはいられないのよ?
30過ぎた女と、若いぴちぴちした女とどっちがいいか、
彼に直接聞いてみたら?」



30過ぎた現在、読むと・・
ヤ〜〜な台詞ですねえ!!(笑)。



さあ。苦労、開始です。



カントク:「・・・・もっとさらっと言って」

さらっと?え?いやみっぽく言おうと思ったんだけどな・・・。


カントク:「違う。もっと、さらさらっと。」


さらさら?


カントク:「違うんだよっ!それじゃあ、棒読みだろ?!」


え・・?さらさらしてみたんだけど・・じゃ、じゃあ、これなら・・


カントク:「そんな抑揚をつけないで!!さらっと!!」


苦しい。
意味がわからない。
「さらっと」「さらさら」の意味が全然わからない。
意味がわかってないから工夫ができない。
どうしていいかわからない。




途方にくれる私。


周りのスタッフたちが待ちくたびれている。嫌な空気が流れます。
大先輩の俳優さんお二人を待たせています。




そしてカントクが、恐ろしい一言を発します。




「こりゃだめだなあ。
この台詞全部カットするか」





ちょ、ちょっと待って!!
(T^T)





ちょ、ちょっと待って!
そんなこと簡単に言わないで!
この台詞がなくなったら、
私の写ってる時間がばっさりなくなるってこと?!
そんなのイヤ!そんなの困る!
カットなんかしないで!そんなの、そんなの絶対に嫌!!



私はカントクに取りすがった。



私:「ちょっと待ってください!!!私やります!ちゃんとやります!」
カントク:「だって、できてないだろ。無理だよ。」
私:「もう一度!もう一度見てください!お願いします!」




どうやって、「工夫をしたのか」。
私は、表面上の「台詞回し」とか、「リズム」とかにとらわれて、
きちんと感情を作ってなかったのです。



だから、感情が開放されてなかった。



必死に感情を開放して、
「心から、人を蔑み、心から優位に立っている気分」
というのを、私なりに呼び出してみる。
私自身の内部から。




ダメもと。
これでダメならもう、カットだ。仕方ない。



ダメもとで、この台詞を言ってみました。



きっと・・・。カントクが望むようには言えてなかったと思う。今振り返っても。



けれど、カントクは、「何か」を感じてくれたのか。



カントク:「・・・うーん。それなら、いいか。じゃあ、そのまんま、本番いこう」




(T^T)!!



Hさん(男優):「最後、僕の横にもたれかかるときに、僕のバスローブの胸のところに手を差し込んでごらん。すごく色っぽくな
るから。」



ああっ・・・(T^T)。みんなが・・みなさんが・・
応援してくださっている・・・!!!!ああ・・ああ・・!



Hさんのアドバイスどおりの動きを取り入れ、臨んだ本番は一発OK。




私はカントクに謝りに行きました。



私:「・・・なかなかできなくて・・でもわがまま言ってすみませんでした。」
カントク:「ははは。難しかったろう。ま、あれならいいよ。」
私:「ハイ。」



ここで強烈な一言をくらったのでした。



「オマエも、大人の芝居を覚えないとな」




いまだに・・・・こんな年になっても、
「大人の芝居」とはなんなのか・・・
実感としてわかっていません。


それにしても、何度やってもダメだといわれ続けるあの辛さ。
「カットする」と言われたあの恐怖。



この日ほど、現場で「苦しい」と思ったことはありませんでした。


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