忘れられない「藤音頭」
日本舞踊のお稽古を続ける中で、
強烈に忘れられない出来事があります。
もう随分前に書き終わっていたのですが、
どのコンテンツに乗せるのがふさわしいか、
考えてるうちに日々が過ぎてました。
いろいろ考えましたが、結局は
「師匠の踊りが、すごかった!」
という内容なので、「師匠の踊り」のところに載せることに致します。
藤間達也先生の「藤音頭」のお話♪
2004年3月のある日のことです。
「藤娘」のお稽古が続いていました。
お浚い会まで2ヶ月を切り・・・。
師匠より、強烈なご指摘を頂いてしまいました。
「踊りが、慣れてきちゃったね」
慣れてきちゃった。いや、狎れてきちゃった、ということです。
自分では丁寧に、初心を忘れず踊ってるつもりなので、相当ショックでした。
そして、私は、その次のお稽古の時、師匠に問いました。
「先生、私のお稽古の取り組み方が
間違っていたのでしょうか?」
「はぁ?!」
師匠が「この子、何を言い出すのやら?!」というお顔で
私をご覧になりました。
師匠:「何それ。どういう意味?!」
私:「だって・・・なれてきちゃった。って・・」
ああ、そのことか、という師匠のお顔。
「いい意味でも、悪い意味でもなれてきた。
実際、なれてもらわなくては困るわけだから、
なれてきた、というのは一つの進歩を表してはいるんだけれど、
なれてきたが故に、
踊りが流れて見える」
そんなことを丁寧にお話してくださる師匠。
しょんぼりとうなだれたまま聞く私。
踊りが流れて見えるんだ・・・どうしよう・・・。
師匠:「自分でお稽古の仕方が、何か違うと思ったの?」
私:「・・・・先生が間違っておられるという意味ではありません。
自分の取り組みが間違っているのかなあ・・・と・・・」
師匠:「じゃあさ、聞くけど、あなたはさ、
どんな風に踊りたいの?」
私:「へ?どんな風に?」
師匠:「言って御覧なさいよ。
どんな風に踊ってみたいのか」
「どんなふうにおどりたいか」。
そんなこと、あまり考えた事がなかった。
私が踊りたい踊り。
言葉を選ばず、
私は素直に答えました。
「・・・達也先生が、
いい、とお思いになる
踊りが踊りたいです。」
師匠はにっこりと微笑まれ、こう仰いました。
「じゃあいいじゃないの。(^^)
僕がいい、と思うように
僕はあなたにお稽古してるんだから。
何も問題ないでしょう?心配しなさんな。」
ほらほら、ブツブツ言ってないで。
お稽古するよ。
ブツブツ言う暇があるなら、一回でも多く踊る!
ほらほら!!!
でも。
心の中に、迷いと不安ばかりを抱えたままの私の踊り。
先生にご注意をいただいても、混乱してよくわからない
そうして・・・。
「藤音頭」の2番を踊ったところで・・・・
師匠がテープを止められ、すっとお立ちになられました。
師匠:「いいかい?一緒にやるから。よく見てなさいよ」
師匠が私の前に立って下さるのは久しぶりの事でした。
私の混乱ぶりを見るに見かねてのことだったのでしょう。
テープのスイッチが入り。
私が、そこで、見たものは。
「藤間達也」色で一杯の「藤音頭」
でした。
振りの順序を入れていただいた時とは全く違う。
ホントの「藤間達也先生の藤音頭」。
すごいの。
本当に、すごいの。
達也先生はいつもおっしゃる。
「僕が舞台で藤娘を踊ることは一生ないね」
ならばならば。
こんな先生の、本気の「藤音頭」、
滅多に観られるもんじゃない!!!!!
におい立つような色気。可憐な仕草。
可愛らしい娘のほろ酔いの姿
ゆったりとやわらかい雰囲気。
全ての動きの夢のような美しさ。
すごい。
絶対に絶対に忘れない。
この瞬間を絶対に絶対に忘れない。
私は瞬きするのも惜しい想いで、師匠の踊りを見詰める。
あまりに綺麗で笑いがこみ上げる(^^;)
★師匠の後ろで、一緒に踊りつつ、ず〜〜っとニヤニヤしてた私・・・
そうだ。これだ。これなんだ。これが、
「僕がいいと思うような踊り」
そしてすなわち
「私が踊りたい踊り」
眼からウロコがぼろんぼろんと落ちていきました。
「藤音頭」の2番が、終わりました。
師匠:「・・・・って感じでやってほしいの。わかった?」
私:「・・・・はい(ニヤニヤ)・・・・」
師匠:「何、笑ってんの?!ちゃんと見てたの?!」
私:「すっごいちゃんと見てました・・・あの・・すみません」
師匠:「何?」
私:「す、すみません、あの、あまりにすごくて、
嬉しくなっちゃって
笑いがこみあげちゃって
止まらなくなっちゃって
すみませんすみません(^^;)」
師匠、爆笑。
「変な人だな〜〜!ホント、あなた、おかしいって!!」
私はこの日、この師匠の「藤音頭」を見て、
あらためて知ったのです。
私がどんな風に踊りたいのか。
その目標がはっきりした後、
少し「悪い意味でのなれ」からは脱する事ができたように思います。
そして、その
師匠の「風(ふう)」
とは、どんなものなのか。
まだまだ踊りの素人である私が言うのはおこがましいですが、
「師匠の風」を、もし一言で表せるなら。
「踊りに温度がある」
ということだと思います。
★ふじおんどの、おんど、にひっかけたのでは、決してありません!!!(笑)マジですマジ!
温度のある芸を見せられる師匠。
それまでも何度も師匠のいろんな舞台を観て来て
私はなんで、こんなに師匠の踊りが好きなんだろう??と
分析しきれてないところがあったのですが、
この日の「藤音頭」で、私ははっきりとわかったのでした。
ウチの先生はやっぱりスゴイ(^0^)♪
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