その5・・・「ダーリーン!」



勿論、手の先から光線が出ています。攻撃中。



ラミイの形を受け入れることに成功した私だったが、
          まだ、ラミイのキャラクターはわかっていなかった。これまた勝手に、
「クールでカッコイイ」を想像し、カッコイイ自分を期待していた。

ラミイはカッコいい。でも・・・・カッコいいだけではなかったのだ。



台本に書かれた次のセリフに愕然とする。


「ダァリィーーーーーーーーン!」


          ・・・・・・・・・・・えええー??ナニコレ・・・・・・。
クールじゃないじゃん・・・・・・・・・(T^T)


怪獣であるグリフォーザーの妻、ラミイ。長年、地球に単身赴任(?)してる夫を
           ただひたすら待ち続けたいじらしい妻。愛しい夫との再会を果たした喜びに
「ダーリーン♪」と駆け寄って、抱きつく。

相手は怪獣。セリフはダーリン。ダーリンかよっ!
抵抗感が沸き起こって、また私の気分は憂鬱になった。


          現場で改めて、じっくりとグリフォーザーを見た。
          これに向かって「ダーリン!」なの?抱きつくの??まるでコントじゃん・・・。
猛烈な勢いで私の胸に込み上げた感情、それは・・・・・・・




恥ずかしい!!!!




女優になって数年。ここまで「恥ずかしい」という気持ちを持ったことは無かった。
どうしよう?と思った。本当にどうしよう?と。

何もかも捨てなければ出来ない。
そんな気分だった。

出番は近づく。ええい。わかったわよ。
何もかも捨ててやるわよっ!!!!!


「テスト、いきまーす。用意ーっ、はいっ!!」
カチン!(カチンコの音)



捨てた。ぜーんぶ捨てた。すっきり捨てた。



私の心の引き出しに入っている、人を好きになるという感情のありったけすべてをこめた。
綺麗にクールでかっこよく映っていたいという想いも捨てた。



「ダーリーン!!」
両手一杯広げて駆け寄って、グリフォーザーを抱きしめ、ほお擦りした。
「いよっ!いいよ。よし本番いこう!!」という監督の声。
本番も一発OK。そして私の中に、奇妙な充実感が残ったのだった。





後に、ジバンの頃のアクション監督、山岡氏が、
  このシーンの感想をこう言ってくれました。
      「あみちゃんが、ダーリーンっ!って駆け寄ったのを見たとき
         『ああ、河合亞美、抜けたなって思った。
       どこかに持ってた、殻がなくなったよね。すごく開放されてた。
        成長したなあって思ったよ。嬉しかったね。」

    

    そう。私は・・・それまで、いつもどこかで「こう見られたい」とか「こう振舞いたい」とか
    そういう小さな物差しに支配されていたところがあった。自意識過剰。
    しかし、ラミイは、そんなものを持っていたら、演じられない手ごわいやつだったのだ。
    のびのびと、開放してやらなければ、ラミイになれない。


    そう。私はこの日、初めて本当の意味での感情開放に成功したのだ。
    一度感情開放を覚えてしまったら、なんと後が楽になることか!!
    芝居をするにも、リポートをするにも、上手い、下手、以前に
           感情が開放されてなければ何も伝えられない。


    あの猛烈な恥ずかしいという感情を克服できたことで
    私は山岡さんがおっしゃったように、おそらく、「抜けた」のだ。
    


    ラミイと出会ってなければ、わたしは今もちいさな物差しのなかで
     チマチマと人目を気にしていたかもしれない。
                 そんな風に思うのである。


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