本番当日ドキュメント

2004年8月28日、土曜。
「達喜会」浴衣浚い、本番当日の朝は・・。


「所作台のぞうきんがけ」からスタートです(^^)。


何せ、浴衣浚いは、「手作りの会」。
みんなで協力しあって、沢山のことをします。
師匠をはじめとする男性陣の皆様が所作台をひいてくださり、
「着物じゃなくて、洋服で来てくれる?」
とのお達しを受けた私たち数名の門下が所作台を磨きます。




「よろしく御願いしますね♪」
心を込めてぞうきんがけしながら、思わず、所作台にほおを寄せて話し掛ける私。
ここで踊らせていただける喜びがこみあげる。



そして、最初のひと踏み。
右足で、トン!!!!


ん。いい音♪気持ちいい〜〜〜〜〜(^0^)



その後も門下一同みんなで協力しあい、
助け合いながら準備をすすめていきました。
みんな、とても活き活きと走り回っていて、
いかに、この会と、この会を開いてくださった師匠を大切に思っているかが伝わってきます。


順調に準備が進んでいきました。





さあ、開幕。演目は進んでいき。



私の仕度の時間になりました。
仕度といっても、衣装は浴衣だし、
髪はショートヘアなので、軽く固めるだけ。
メイクを少しだけ華やかにするくらい。
ただし、帯は本物を結んでいただけます♪♪
(ずっとお着付けをお手伝いくださった藤間富久穂先生。ありがとうございました)



富久穂先生が素敵に結んで下さいました。

★師匠が衣装屋さんからお借りしてきて下さった帯。★



う。うふ。
うふふふふふふ♪




とっても気分は田舎巫女〜〜♪(^0^)



超ご機嫌モードに入る私をご覧になった富久穂先生が仰いました。
「そうそう♪そうやって、
気分を盛り上げるのはいいのよ♪
どんどんやる気満々になって♪」

はあい♪やる気満々でーす♪






いよいよ私の前の番組が始まります。下手袖で待機です。




ん。んんんんんん。


にわかにこみ上げる緊張の塊!!!(T^T)



思わず大きくため息をついた私に、
後見で入ってくださっている、花柳寿太一郎先生が声をかけてくださいました。



「どうしたの?あみちゃんでも、緊張するの?」
「は、はい。なんか、この辺(胸)に何か入ってるみたいで・・」
「なに、なにが入ってるの?」
「なんか、塊が・・・・。」


「ぐわっ!と、その塊!んもぅ
出しちゃって出しちゃって!」




その仰り方が、ものすごく面白くて
舞台袖で思い切り笑い転げてしまった私(^0^)
とってもリラックスさせていただきました♪
寿太一郎先生、ありがとうございました(^^)♪




私の前の番組が終わりました。


ふと、横に立っておられる師匠のお顔を見上げました。


きっとそのとき、私はとても心細い顔をしたんだと思います。



師匠は笑顔で、
「大丈夫だよ。いつも通りやればいいんだから」
と仰りながら、私の帯〆の形を丁寧に直してくださいました。



いつもどおり。



この言葉を胸に、
私は鈴を振りながら、「田舎巫女」になって、
舞台の真ん中へと進んでいったのでした。






舞台の真ん中に飛び出していった直後。
いつもより滑る所作台に動揺し、
「いつもどおり踊れない」と思ってしまった私。


零点何秒、いやそれ以下かもしれないけれど、
「いつも」と小さなズレが生じてる私の動き。
数ミリ、いや、それ以下かもしれないけれど、
「いつも」と小さなズレが生じている「踏む」場所。



怖い。


転んだらどうしよう。



私は、なんと登場直後の数秒で、
心の中で、いろんなことを考えていた。



「あれやって、これやって、あのくだりがあって・・・・・
うわ、まだまだ先は長い。まだまだ踊らなくちゃならない。」


気分はユウウツになっていた。



踊りながら、しかも舞台の上で、ユウウツな気持ちになるなんて。
自分で自分が信じられない状態になりかけていた、



その時。




下手袖に、私を見つめる師匠のお姿が見えた。



そうだ、私は、この方にいただいたものをここに出さなくてはいけない。



あきらめてはいけない。
自分のことを信じられなくても、師匠のことは信じられる。
私は、この方に教わってきたのだ。



今の状況で、
師匠に教わった事の100%は出せないかもしれない。
でも、今の状況で出来る事を全てやるしかない。




あご。あごをあげないよう。
「あごあがると、おんなっぷりが落ちるよ」と
お笑いになった師匠の声が聞こえる。
足は滑る。でも
あごはあげない。絶対にあげない。


あごをひくと客席がよく見える。



お客様が、見てくださっている。
こんな私の芸を。



私の心の動揺を気づかれてはいけない。
お客様は動揺してる私なんか観にいらしてない。



無理やり、心の奥底から
「笑う気持ち」を引きずり出した。



「お面」のくだりがきた。


お面の中で、満面の笑顔を作った(笑)。



お稽古のときふらついたところ。
ああ、よかった、ふらつかないでできた。
袖が汗で腕に貼り付いている。
ああ、やっぱりうまく手が入らない。
これはいつものことだし、仕方ないな。



お面をはずして、正座から、ぴょんと前に飛び出す。



つま先が滑った。

よろけた。




ものすごいショックが私の心を締め付ける。
今まで一度もよろけたことのないところで
よろけた。
くやしい。なんてこと。くやしい、くやしいよ、先生!!



泣き出しそうな気持ちを1秒後に必死に切り替えた。




私の「田舎巫女」。
14分間が終わった。


私は下手袖で、悔し泣きした。



「いろんな人が褒めてくれただろう?
ちゃんと褒められるように、教えてやっただろう?」


後に師匠に言われました。
はい。確かに。褒めていただけました。
先生に丁寧に教えていただいたお陰です。



「小さな事は、ね。本番はナマものだから
仕方ないよ。滑っちゃったのもご愛嬌。
でもトータルで、見て、よく踊っていたんだから。
それでいいの。これで終わりじゃないんだから、
この、先があるんだから。」



この先に向かっていく為に。

「田舎巫女」は沢山のことを私に教えてくれました。



そして、私はあの日、客席の皆様のお陰で
最後まで踊ることができました。
皆さんが支えてくださったのです。
この感謝の気持ちを忘れずに、
いつか、いつか、恩返しできますよう、
精進して参ります。


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