本番当日のこと

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常磐津「松廼羽衣」〜伯了:藤間達也先生 天女:藤間絢也(私)
「こういう写真が残ったらいいな」とお稽古中から願っていた通りの写真(T▽T)
私のひとつの大きな「夢」の実現。


ここでは、舞台の上のことを書こうと思う。

親友の花柳多智雛さんがブログを通じて、こう私に問いかけている。
「一体どんな気持ちで踊ったんだ?」


その答えを少し書いてみよう。

振り返ると、初舞台の時から
必ず忘れないうちに、この
「どんな気持ちで踊っていたか」を書き残している。

一つの記録として再び記す。



今回、またまた私は舞台の上で
私は「初めての経験」を沢山したのだ。


お稽古では決して出来ない。


舞台でしか、できない、経験と、勉強。

***********************************

常磐津「松廼羽衣」午後13時38分掛かり。
上演時間・約25分。


この25分のための6ヶ月。
どれだけ苦しみ悩んだことだろう。


裂けるんじゃないかと思うほど、
唇を噛み締めた日。
御稽古場の外階段で、声をあげて泣いた日。
自分のお稽古の順番がくるのがユウウツで
ずっとみんなの後見をやってたいと、本気で思った日。
無理だ、だめだ、逃げ出したい、
こんなのできっこない、
先生ごめんなさい、私には無理です・・・
と心の中で何度も絶叫した日。
なんで、この演目にしちゃったんだろう?と
激しく後悔してしまった日。
「ねえ、私の踊りってつまらない?絶対につまらないよね?」と
後輩のお弟子さんに訊いて、困らせた日。



本番二日前の最後のお稽古。
他の皆さんが「よくがんばりました」というお言葉を頂く中、
私は、最後の最後まで
「出」のダメ出しをたっぷりと受けて
「出」までどういう心の準備をすべきか
こってりとしぼられた(^^;)


「じゃあ、これで行きましょう」と師匠に言われた時、
プツン、と何かが切れて
私は、この踊りのお稽古が始まって以降、
初めてみんながいる前で
ボロボロ涙をこぼして泣いてしまった。



師匠:「おいおい〜〜まだ終わってないよ〜〜
泣くのは早いよ〜(笑)」

みんなも笑いながら
「絢也さん、泣くの、早いですよ〜〜」



違うのだ。
感極まって泣いたのではないのだ。


ホントの本音の告白。
「ああー!やっと苦しいお稽古が終わった!」
これが私の涙の背景。


通常、舞台前の最後のお稽古は
「あー、これでおわりかあ」と
淋しい気持ちになるもので、
「もっとやりたい」とか「何か遣り残したことがあるような・・」という
ムズムズ感が残るものだ。


でも今回はそうではなかった。
「ああ!やっと終わった!これで本番に行ける!」


私の心は、すがすがしい気持ちだった。
すがすがしい気持ちの中から生まれた涙だったのだ。



そんなこんなで迎えた本番のこの時。



ああだけど今日は、とびきり楽しく踊れそうな予感がする。


私の心は、緊張しつつ
とてもはずんでいた。


地方さん、後見さんにご挨拶をして
師匠とともに下手袖に立つ。



師匠が笑顔で振り返る。


師匠:「先に行って、舞台をあたためておくからね」

私は笑顔で「はい」と返事をした。




いよいよだ。




師匠がもう一度私を見る。
私も師匠を見る。
目だけで一瞬会話をして、
そして師匠が三味線の音色とともに
光の中へ進んでいった。


「僕が踊っている間に
おなかの中に
気持ちをしっかり作って出て来なさい。」と
最後のお稽古で言われた。


緊張で心臓が爆発しそうだ。
おなかの中に気持ちを作る余裕なんてない。


でも「のうのうそれこそははごろもとて」と声にした時に
気持ちがどんどん静まって。


私は師匠に続いて光の中へゆっくりと進んでいった。


その時、客席から拍手が起きた。


へへっ♪気持ちいいぞ。



伯了と動きをあわせて
ゆっくりと正面を向くと・・・


おお。お客様が一杯だ♪


その時、
とてもこの場所が居心地よく感じた。
この光の空間の気持ちよさ。


ゆっくりと向かい合い
一瞬天女は伯了と目を合わせる。


私は、とても優しい気持ちになり
師匠としてではなく、
相手役の伯了の動きに
「気持ちをまかせよう」と思った。


この「気持ちをまかせる」というのは
多分、組み物を踊る上での重要なヒントのような気がする。

二人で動きを合わせて踊るところは
自分の踊りをどう踊るか、ということより
相手役に気持ちをまかせることにだけ集中した。


相手に気持ちをまかせて、
結果、二人の動きがぴったりのタイミングでシンクロしたときの
快感は、この本番で初めて味わった。




楽しい。




参ったなあ。
楽しくて笑ってしまいそうだ。



あんなにお稽古、辛かったのになあ。


すごい楽しい。
すごい幸せだ。



「なんて幸せなんだろう」と思いながら
舞台で踊れるなんて。
私、今世界一幸せだよ。



下浚いで失敗したところが
次々にクリアされていく。


「今日は、絶対に失敗しない」という
根拠のない自信が胸に湧いた。


ヨウラクと長絹を身につけ、「天女の舞い」に入った。


お客様の上を飛んでる気分。
これがまたなんとも気持ちがよくて。


楽しくて、楽しくて
気持ちがよくて。


そうしてこの25分間が終わった。






気持ちをまかせて踊るということ。
この重大な意味を
25分間で体感した。



今まで私は自分の力で何かをねじ伏せるように
踊っていたような気がする。
それは自分の欠点だったり、苦手なところだったり。

お稽古ではそれでもいいかもしれない。
だけど本番で、それは、やっぱりだめだ。


本番で気持ちをまかせるものは沢山ある。
音に気持ちをまかせる。
相手に気持ちをまかせる。
もっと言っちゃえば、

お客様に気持ちをまかせる。


自分の力で何かをどうこうするのではなく
まかせる。


これはとても大切なことだと
舞台の上で初めて知ったのだった。




きっと、師匠が舞台の上で作る空気が
それを教えてくれたのだと思う。
師匠に私は確実に引き上げていただいたのだ。


すごい楽しくてすごい幸せで。
すごい気持ちよくて。
すごい沢山のことを勉強した。


また、今の私の100%が出せたと思う。


そういう意味で、まったく悔いなし!
心底充実した気持ちだ。



やっと正真正銘、ウソ偽りない言葉で大声でいえる。



「松廼羽衣」を踊ってよかった!

今までどんな演目でも「これを踊ってよかった」を思うけれど、
これほどにまで思えるとは!!



本当に本当によかった!!

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既にDVDで自分の踊りを見ました。


いやあ・・・
よくここまできたなあ・・・
というのが正直な自分への感想です。


もちろん反省点は沢山。
「ああーここはもう少し」とか
「ここはどうしてこうなっちゃったんだろう」とか。

次回への課題として、それはまた、
精進を重ね、
ひとつひとつ克服していこうと思います。


普通は自分の踊る映像を見ると落ち込みますよね。
こんなはずじゃなかった・・・と。
こんなにひどかったのか・・と・・。


昨年の「達喜会」の「子守」の映像を見たときは
落ち込みを通り越して
笑ってしまいました。
「こんなにひどかったんだー。あはは。
でも楽しかったからいいかー」
と自分を慰め・・・。


今回。


私。


落ち込んでません。


今の私の100%が出せたと
胸を張っていえます。



欠点や課題はその100%の中の一部。
残念ながら、今の私の力では
それらはまだ、努力だけでは克服できませんでした(T-T)。


でもこれから、もっともっとお稽古して、
絶対に出来るようになります!!


うんとうんとお稽古したい!
という情熱でいっぱいです。



すぐに泣いたり落ち込んだりする、
不器用で面倒くさい性格の私を(^^;)
ここまで連れてきてくださった師匠に感謝です。



今はまだ小さな器に入っている私の「100%」を
もっともっとでっかい器に入れられるよう。



これからも師匠の手を離すことなく
ついてまいります。



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